はじめに
アメリカ人の見た徳川家康 ~日本合衆国を造った男・徳川家康~
アメリカの著名なコラムニスト、マイケル・アームストロングの「アメリカ人のみた徳川家康」(日新報道出版部刊)から家康分析を簡単に紹介したい。彼は徳川家康の成功の秘密を次のように述べている。要約すると、家康は日本で初めて「大帝国」をつくりあげ、基本理念をはっきりと掲げ、一国の管理運営に成功した偉大な政治家であるという。その家康が造った「大日本徳川帝国」成功の秘訣を、次の五点に要約して説明している。
- 小さな効率的政府(徳川幕府)の樹立
家康が造った徳川幕府は、各藩に司法・行政を委ねて一国の独占管理は幕府が掌握し見事な中央集権制度によって効率的に近世社会に変身したというものである。 - 経済の活性化と幕府財政の再建
貿易や金銀銅その他米などの独占によって、家康は国富の増大で財政を安定させた。 - 力による平和路線の継承
家康の制定した武家諸法度によって、「軍縮条約」を整備し「力による平和」の政策を推進した。 - 抜群の統治能力
軍事努力と、管理された幕府の情報収集能力で国内を治めた。 - 技術革新の積極的導入
製鉄の増産や造船、さらには大砲などの大々的な西洋技術の導入によって、ヨーロッパ諸国と並ぶ技術革新に成功。
アームストロングは、日本人が今まで気づかなかった家康の成功の秘密をこのように指摘した。家康は戦国時代に終止符を打ち、「平和」をもたらした裏側では苛烈(かれつ)な情報戦によって平和を支えた。彼は、こうした意義を重視しない家康論は不毛であり、家康の駆使した「諜報戦略」にこそ「家康の成功」の謎を解く鍵があるという。
家康の時代を世界的視野で眺めても、家康に比肩(ひけん)しうる国際的リーダーは見当たらないとまで評価した。この点家康の業績について考えると、彼の功績は今日のノーベル平和賞を超えると評価した。コラムニストらしい発想とはいえ、家康の核心を鋭く突く内容である。確かに家康をこのように評価する見方は少なく、これまでの日本人の研究家からは聞いたことはない。
アームストロング自身も、家康のプラス的評価は日本人には今まで少ないと述べ、むしろ欧米諸国、とりわけアメリカ人の間では正当な家康の評価が今始まっているという。家康について、彼はまた別の評価を与えた。それは「関ヶ原の合戦」についてである。家康の天下統一を形成したこの戦いは、アメリカの南北戦争と同一の意義を持ち、家康の業績はリンカーンと同様であるばかりか、アメリカ独立の父ワシントンや法令の整備をしたジェファーソンというアメリカ三大巨人の業績を、家康は17世紀の「駿府大御所時代」に一人占めにしたとまで言っている。しかもアメリカ合衆国ができる以前に家康は、大御所政治を作り大統領として駿府で政治を行った。このことを考えると、USA(アメリカ合衆国)の成立よりUSJ(日本合衆国)の方が早くできたと言うのである。
アームストロングの家康研究は、多くの外国に残る史料や古記録を基に調査し、日本人のこれまでの家康像を完全に塗り替えた論考といえる。
アームストロング以外にも、次のような研究者がいる。
- P・G・ロジャーズ(イギリス) 「日本に来た最初のイギリス人」
- ノエル・ペリン(イギリス) 「鉄砲を捨てた日本人」
- ウイレム・ボート(オランダ) 「徳川家康の宗教政策」
- ジェームズ・クラベル(イギリス) 「将軍」
- ロナルド・P・トビー(アメリカ) 「近世日本の国家形成と外交」
- ヨーゼフ・クライナー(ドイツ) 「ケンペルのみたトクガワ・ジャパン」
- ジャイルズ・ミルトン(イギリス) 「さむらいウイリアム」